【書籍紹介】『ヘーゲル哲学と性』『政治的エコロジー』
人文書院の松岡様より、新刊『ヘーゲル哲学と性』『政治的エコロジー』をご恵投いただきました。いずれも興味深い内容であり、新プラットフォーム《交界の羅針盤》で主要論点を取り上げたいと思いますが、それに先立ち、ひとまずここでも短い紹介をしたいと思います。
岡崎佑香氏の著書『ヘーゲル哲学と性』は、ヘーゲルが性別二元論とどのように向き合っていたか、いかにその枠組みを批判しつつ、それに囚われていたかを詳しく分析した画期的な研究です。様々な発見がありましたが、特に女性の修学をめぐる偏見と闘った18世紀の女性哲学者ドロテア・レポリン・エアクスレーベンの存在を知るだけでも、本書を紐解く価値は高いと言えるでしょう。ヘーゲルのテクストから現代社会の諸問題を解決するための処方箋を抽出する、といった安易なアプローチから距離を置く著者の姿勢にも、流行や商業主義に流されない堅実な哲学研究のあり方を見た気がしました。
最後に、それまでの研究方法とははっきり線を引いた上で、現代フェミニズムの観点からヘーゲルの哲学を検討するくだりがありますが、性売買に関する認識はセックスワーク論の文献だけでなく、その限界や矛盾をはっきり指摘しているバリー(2024)やジェフリーズ(2025)などの議論によって補強・軌道修正される必要があると感じました(ここは明確に著者の論理展開の破綻が見られた箇所)。しかし、ヘーゲル哲学を性の観点から読み解くというアプローチにおいて、本書は独特の価値を持つ研究成果に違いありません。
土佐弘之氏の著書『政治的エコロジー』は、社会危機と環境危機が密接に繋がっているという認識のもと、その構造によって排除されてきた様々な人間以上のアクターを包摂する政治理論を模索する試みです。環境正義や自然の権利運動の展開をたどりつつ、ラテンアメリカの先住民思想に基づく環境論や、それが行き当たる新採掘主義の問題にまで書き及ぶ著者の議論は、これから私が探究していこうと考えている領域にも重なるところがありました。
動物倫理に関しては基本的な前提が踏まえられていないため、ここに関しては井上(2022)もしくは(それに加えて)シンガー(2024)、レーガン(2024)、フランシオン(2018)によって補強する必要性を強く感じます(これらはドナルドソン&キムリッカやテイラーを読むための基盤)。しかしながら、広範なエコロジー思想を批判的に検討したうえで、交差性理論やポストヒューマニズムを組み合わせ、政治的エコロジーを構想する著者の議論は、多種存在との共存をめぐる今後の議論において重要な参照軸となるでしょう。
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