畜産・ビーガン関連ニュースにみられる情報操作

2月8日、AFP通信の日本語ニュースサイトAFPBB Newsに、アメリカの活動家がローマ法王にビーガン食の励行を求める、という内容の記事が載った。ビーガン関連ニュースの一つとして興味を惹かれたが、読んでみると話が抽象的で、なぜ当の活動家が法王にそのような要望を出したのかが、一般人にとって理解しにくい記述となっている。おかしいと思って原文を探してみたところ、日本語の翻訳記事では元のAFP記事にあった重要な記述の全てが削除されていると判明した。

畜産やビーガニズムに関する報道で情報が歪曲される例は珍しくない。例えばかつてNHK・BS-1で放送された「BS世界のドキュメンタリー『低価格時代の深層(原文ママ)』」では、ルーマニアにやってきたアメリカの食肉企業が、巨大養豚場の設置によって現地を汚染しているとの事例が報じられたが、元ナレーションでは企業名が「スミスフィールド社」と特定されていたのに対し、邦訳版ではただ「アメリカを本拠地とする食肉多国籍企業」というフレーズが用いられるのみで、肝心の企業名はカットされていた。今年の1月30日に放送されたテレビ東京の番組『未来世紀ジパング』では、動物擁護集団「269」代表者のセリフが、「あんた」という二人称の使用や敬語体の不使用によって、翻訳だけを聞くといかにも悪党らしく響くよう演出されていた。翻訳上のトリックを離れたところでは、大腸菌騒動の発生時にカイワレ大根やトングの使い方が問題視されつつ、真犯人の食肉産業が毫も顧みられない傾向などにメディアの恣意的な誤導が観察できる。多剤耐性菌の発生源である畜産業の問題もメディアでは報じられない。

探せば他にいくらでも事例は挙げられようが、そのような中で、このたびの報道である。なるほど邦訳の紙面では日本の読者へ向け、時に原文にあった情報のいくらかを削る必要があることは認めよう。しかし本記事は元の英文記事で言及されていた肉食の弊害やビーガニズムの効用を覆い隠し、問題の公開書簡が訴えるメッセージを骨抜きにし、ひいてはこの事件を報じる意義そのものを葬っている。こうした形で特定産業の既得権益を擁護する一方、人々を社会正義問題に関し無知のままでいさせる報道機関の不誠実さには、大いに批判の目が向けられてよい。

以下に、AFPBB Newsの当該記事全文、およびその元となったAFP英文記事全訳と同原文を掲載する。前者の記事が恣意的な情報削除ではなく、日本の読者へ向けた適切な情報整理といえるか、読者諸氏はぜひ判定していただきたい。


【AFPBB News記事】

法王はビーガンになって、12歳少女が書簡 賛同で1億円を寄付

2019年2月8日 21:10 発信地:パリ/フランス [ フランス ヨーロッパ ] 

【2月8日 AFP】12歳の少女がローマ・カトリック教会のフランシスコ法王(Pope Francis)に公開書簡を送り、イースター(Easter、復活祭)まで40日間続く四旬節(Lent)の期間中、完全菜食主義者(ビーガン)の生活を実践するよう求めた。法王が賛同すれば、国際基金は法王が指定した慈善事業に100万ドル(約1億1000万円)を寄付するという。

 6日に公開書簡を送ったのは動物の権利などに関する活動を行うジェネシス・バトラー(Genesis Butler)さん。バトラーさんの書簡にはビートルズ(The Beatles)元メンバーのポール・マッカートニー(Paul McCartney)さんや、仏女優のブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)さんらが賛意を示している。

バトラーさんは書簡で「法王、私たちは行動しなければなりません」「植物中心の食事への移行は土地や木々、海や空気を守り、世界で最も危機にひんする人々に食事を与えることに寄与します」と指摘。

 さらに「私と一緒に四旬節の間はすべての動物製品を控えていただくよう、法王にお願いします」と訴えた。

 質素な生活ぶりで知られる法王だが、法王の祖国アルゼンチンは1人当たりの牛肉消費量が世界で2番目に多い。

 書簡はバトラーさんと非営利キャンペーン「ミリオンダラービーガン(Million Dollar Vegan)」が連名で執筆。同キャンペーンを率いる米国のブルーホライゾン国際基金(Blue Horizon International Foundation)は、法王が賛同してくれれば100万ドルを資金提供する意向を示している。(c)AFP


http://www.afpbb.com/articles/-/3210203?cx_part=top_focus&cx_position=3(2018年2月11日アクセス)


【AFP英文記事全訳】 ※〔 〕は訳注。

活動家から法王へ―四旬節にビーガンになったら100万ドルを寄付

動物の権利運動と気候変動問題に取り組む12歳の活動家が水曜、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王に向け、拒みがたいと思われる嘆願を送った――四旬節の期間中、ビーガン食を励行すれば、法王が指定した慈善事業に100万ドルを寄付するという。

「法王、私たちは行動しなければなりません」――10歳でTEDxトークを行ない、早くもベテランの活動家となったジェネシス・バトラーは公開書簡でそう語る。ビートルズ元メンバーのポール・マッカートニーや、映画女優のブリジット・バルドーほか、何十人もの著名人がこれに賛意を示している。

「植物中心の食事への移行は土地や木々、海や空気を守り、世界で最も弱い立場の人々に食事を与えることに寄与します」。

「法王、本日お願いしたいのは、四旬節の期間中、私とともに一切の動物性食品を食べ控えてもらうことです」。四旬節とは復活祭まで40日間続く悔悛と断食の聖節で、カトリック教会、聖公会、正教会にみられる〔正教会では大斎、聖公会では大斎節、まとめて四旬斎という〕。

バトラーの書簡は3つの社会運動を反映したもので、これらの運動は一丸となり、食肉消費の削減・一掃を求める声を強めている。

気候科学者は現在の世界における食品の生産・流通・消費が、温室効果ガス排出の25~30%を占めると証明してきた。

養牛業だけでその半分以上を排出し(牛の腹部に溜まるメタンによる)、森林――特に熱帯雨林――が畜産のために伐り払われると〔木々に蓄積されていた〕二酸化炭素も放出される。

法王は質素な暮らしぶりで知られるものの、故郷のアルゼンチンでは食肉消費が盛んで、1人当たりの牛肉消費量は世界第2位に達する。

ある大々的な研究〔昨年10月『ネイチャー』に載った論文か〕が先月試算したところでは、徹底した植物中心食――肉の量を現在の消費水準(特に先進国のそれ)より大幅に下げた食事――は、来たる2050年に存在するであろう100億の人々を、環境を損なうことなく養える。

「8億1500万人の人々が栄養不良で苦しむ中、私たちがこのような浪費的食生活を脱したら、世界の飢える人々をどれほど養えるか、想像してみてください」。非営利キャンペーン「ミリオンダラービーガン」と共同執筆した書簡の中で、バトラーはそう訴えた。


―健康上の利点―

齢8歳でこのカリフォルニアの少女は動物福祉活動家に加わった。メンバーの多くは肉や肉製品を拒んでいる。

ビーガンはその一歩先を行き、乳製品、卵、その他、動物の苦しみを伴うとされる一切の食品を避ける。

最後に、同キャンペーンは野菜・果物・穀物・豆類・ナッツ類を主とする食事の健康上の利点に光を当てる。

世界の約20億人は間違った食品を過剰摂取しており、これによって蔓延する肥満は、心疾患や糖尿病、さらに有力視されるところでは数種の癌の発症率を高めている。

ビーガン推進キャンペーンは若年層が進める近年の気候変動防止運動をも反映するもので、後者を率いる活動家の1人、16歳のスウェーデン人グレタ・トゥーンベリの活動呼びかけは先月、ダボスの世界経済フォーラムで大きな脚光を浴びた。

トゥーンベリの訴えによってヨーロッパとアメリカでは散発的な学生ストライキが起き、急を要する地球温暖化対策の必要性に光が当てられた。

「ミリオンダラービーガン」キャンペーンを率いるアメリカのブルーホライゾン国際基金は、法王がキャンペーンに賛同すれば87万8000ユーロを寄付すると誓った。

キャンペーン主催者らの指摘では、フランシスコ法王は2015年の回勅『ラウダート・シ』の中で、生活スタイルと生産・消費の大きな見直しによって自然の回復と気候変動への対抗を目指そうと呼びかけている。


【AFP英文記事原文】

Campaigners to Pope: $1m to charity if you go vegan for Lent

6 Feb. 2019

A 12-year-old animal rights and climate campaigner made an offer Wednesday Pope Francis may find hard to refuse: eat vegan during Lent and a million dollars will go to a charity of the Pontiff's choice.

"Your Holiness, we must act," Genesis Butler, already a veteran activist when she gave her first TedX talk at the age of 10, said in an open letter supported by former Beatle Paul McCartney, film legend Brigitte Bardot, and dozens of minor celebrities.

"Moving towards a plant-based diet will protect our land, trees, oceans and air, and help feed the world's most vulnerable."

"Today, Pope Francis, I am asking you to join me in abstaining from all animal products throughout Lent," the 40 days of penance and fasting before Easter Sunday observed by Catholics, Anglicans and Orthodox Christians.

Butler's letter reflects three social movements that have converged into an increasingly insistent call to eat less or no meat.

Climate scientists have shown that the way food is currently produced, distributed and consumed worldwide generates 25 to 30 percent of planet-warming greenhouse gas emissions.

Cattle production alone accounts for more than half of those gases, in the form of methane-laden flatulence, and carbon dioxide released when forests -- especially in the tropics -- are cleared to make room for livestock.

While the Pope is known to live a frugal lifestyle, his meat-loving homeland Argentina is the world's second-biggest consumer of beef per capita.

A major study last month calculated that only a stringent plant-based diet -- with vastly reduced meat portions compared to current levels of consumption, especially in rich nations -- can feed the 10 billion people projected to inhabit the planet in 2050 without wrecking the environment.

"With 815 million people suffering from malnutrition, imagine how many hungry people we could feed across the world if we moved away from such wasteful diets," Butler said in the letter, written jointly with the Million Dollar Vegan non-profit campaign.


- Health benefits -

At age eight, the young Californian joined the ranks of animal welfare advocates, most of whom foreswear meat or meat products.

Vegans take things a step further, avoiding dairy, eggs or any other foods that, they say, may entail animal suffering.

Finally, the campaign highlights the health benefits of a diet based mainly on veggies, fruits, grains, legumes and nuts.

A global epidemic of obesity -- with some two billion people eating too much of the wrong foods -- is driving higher rates of heart disease, diabetes and, most likely, some cancers.

The pro-vegan campaign echos recent youth-driven movements around climate change, led in part by 16-year-old Swedish activist Greta Thunberg, whose call for action grabbed headlines at last month's World Economic Forum in Davos.

Thunberg's appeals have sparked sporadic student strikes in Europe and the United States to highlight the urgent need to address global warming.

The Million Dollar Vegan campaign is being led by the US-based Blue Horizon International Foundation, which pledged to put up the 878,000 euros if the pontiff says yes.

The organisers noted that Pope Francis' 2015 encyclical "Laudato Si" called for deep changes in lifestyle, production and consumption to restore nature and combat climate change.


https://www.afp.com/en/news/826/campaigners-pope-1m-charity-if-you-go-vegan-lent-doc-1d35tp1(2018年2月11日アクセス)

ペンと非暴力

翻訳家・井上太一のホームページ

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