エコフェミニズム(Ecofeminism)
元来は、人間による自然支配と男性による女性支配の連関に着目し、環境保護は女性解放と並行して進めなければならない、といった主張を行なう思想的立場であったが、キャロル・アダムズらの考察を経て動物解放論と結び付いた現在のエコフェミニズムは大きな変化を迎えつつある。その理論的支柱はキャロル・ギリガンの提唱した「気づかい(care)の倫理」にあり、個々の生きものの内面性や独自性、個と個の関係性を重視して、個別具体的な状況に対応した柔軟な道徳判断の意義を説く。
また、ピーター・シンガーやトム・レーガンらの確立した動物解放論・動物の権利論が、理性偏重の合理主義に立脚していることを批判し、感情の軽視は他者支配の元凶であるとして、共感や思いやりにもとづく被抑圧者とのつながりを再評価する。これにより、エコフェミニズムは「人間/動物」「文化/自然」「男性/女性」「理性/感情」といった諸々の二元論、およびそれらを暗に内包する従来の道徳理論に反省を迫る。
さらに、被抑圧者を真に理解するには、抑圧を生み出す状況を把握しなければならないとの認識から、エコフェミニズムは政治経済的な支配構造の分析をも行なう。
なお、一部のエコフェミニストは動物の権利論で用いられる権利概念を父権制の発明品としてしりぞけるが、動物の権利論者ゲイリー・フランシオンはこれに反論し、権利概念そのものに父権的要素はなく、動物の手段化を絶対的に禁じるには権利概念が不可欠であると指摘する。
現在の代表的なエコフェミニストとしては、キャロル・J・アダムズ(Carol J. Adams)、ジョセフィン・ドノバン(Josephine Donovan)、マルティ・キール(Marti Kheel)、ローリー・グルーエン(Lori Gruen)、グレタ・ガード(Greta Gaard)、リサ・ケメラー(Lisa Kemmerer)らがいる。
【邦訳関連文献】*
- キャロル・ギリガン『もうひとつの声』(絶版)
- キャロル・J・アダムズ『肉食という性の政治学』
- ローリー・グルーエン『動物倫理入門』
* 残念ながら日本にはエコフェミニズムの動物解放論を扱った文献がいまだに存在しない。しかし、上述の通りギリガンとアダムズの著作はエコフェミニズムの理論的支柱であり、また、グルーエンの著作は直接エコフェミニズムを主題とした文献ではないものの、代表的な一エコフェミニスト(穏健派)の視点を学べる点で貴重な一冊といえる。
参考資料
Josephine Donovan & Carol J. Adams ed. The Feminist Care Tradition in Animal Ethics. Columbia University Press, 2007.
Lisa Kemmerer ed. Animals and the Environment: Advocacy, Activism, and the Quest for Common Ground. Routledge, 2015.
Gary L. Francione. Introduction to Animal Rights: Your Child or the Dog? Temple University Press, 2000.
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