【書籍紹介】『南方熊楠の神社合祀反対運動』

慶應義塾大学出版会の編集者の方より、橋爪博幸著『南方熊楠の神社合祀反対運動―自然をいかに捉えたか』をご恵贈いただきました。熊楠とエコロジー運動の双方に関心を持つ私にとって、とても魅力的なテーマを扱った一冊です。

南方熊楠といえば、民俗学や粘菌の研究で知られる偉大な博学者ですが、日本の先駆的エコロジー運動の一つ、神社合祀反対運動を牽引した人物としても知られています。本書はこの運動の背景をなした熊楠の世界観に光を当て、同時代の学者や古今の思想家との比較も経由しつつ、その独自性を浮き彫りにします。神社合祀反対運動は主として地域固有の生態系を保護したいという生物学者的な観点に根差す取り組みと解釈されてきましたが、本書はそこに別の問題関心があったことを確かめます。この運動に言及した熊楠の代表作『南方二書』を読むうえでも本書は貴重な手引きとなるでしょう。

博覧強記の魅力に覆われがちだった熊楠のもう一つの重要側面、神社合祀反対運動に関してこのような詳細な研究が発表されたことは画期的といえます。多くの方に本書が読まれることを期待します。


ペンと非暴力

翻訳家・井上太一のホームページ

0コメント

  • 1000 / 1000